Jean de Pain STUDIO

中国人観光客が戻ってきた。日本の飲食店が気付いていない 3 つの主戦場

2026-05-09 · Jean de Pain Studio
中国インバウンド飲食店多言語サイト小紅書大衆点評

「戻ってきたのは分かるけど、何をすればいいか分からない」

最近、都内の飲食店オーナーから増えた相談です。

「食べログ・ぐるなびに載せても中国の人には届かない気がする」「メニュー中国語化だけで本当に来るのか」「小紅書 (シャオホンシュー)、大衆点評、微信 (WeChat)、何が何だかわからない」。

中国人観光客が戻ってきている、というのは肌感覚で分かるけれど、具体的に何から手を付ければいいか分からない、というところで止まっている方が多い印象です。

私自身は中国語ネイティブで、Web 制作と中国 SNS まわりを業務委託で受けています。両側を行き来していて見えてきたことが、いくつかあるので書き残しておきます。

中国側のプラットフォームは別世界として動いている

最初に共有しておきたいのが、中国側の集客プラットフォームは、日本のそれとほぼ別世界として動いているという話です。

中国本土のネット規制 (Great Firewall) の内側からは、食べログ・ぐるなびにまともにアクセスできません。「うちは食べログで星 3.7 だから大丈夫」というのは、中国人観光客にはほとんど効きません。

中国人観光客が日本の店を探すときに見るのは、別の生態系です。旅前に見ているのは小紅書 (RED)。旅中、店を選ぶ瞬間に開くのは大衆点評。決済は微信支付か支付宝。ここに載っていない店は、彼らにとっては「存在しない店」です。

ここの感覚をつかまないまま中国インバウンド対応を考えると、「メニューを中国語に翻訳しました」で止まってしまいます。翻訳だけでは見つけてもらえない、というのが現場の実感です。

主戦場 1 — 小紅書 (旅前の店選び)

旅マエの主戦場は小紅書です。月間アクティブユーザーが 3 億人を超えていて (2024 年小紅書公式発表)、20-35 歳女性が中心。訪日旅行を計画している層がほぼここに集まっています。

「日本 グルメ」「東京 中華」で検索すると、KOC (Key Opinion Consumer) と呼ばれる、中規模インフルエンサーの実食記録が並びます。中国人観光客はそれを見て、旅の前にだいたい行きたい店をリスト化しています。

意外なのが、KOC のフォロワー規模と CV 効率の関係です。フォロワー 100 万を超える大型 KOL より、フォロワー数千〜数万の小規模 KOC のほうが、結果的に来店につながりやすい。「近所の友達のおすすめ」感覚で信頼スコアが上がる、という構造らしいです。

選ぶときの目安として、フォロワー数だけ見ないことが大事です。直近 3 ヶ月の平均いいね数がフォロワー数の 5% を切っているアカウントは、いわゆる「死にアカ」で、実際の影響力は数字ほどありません。フォロワー 3 万あっても直近のいいねが 100 を切る、というアカウントは普通にあります。

実際に小規模 KOC とコラボした事例だと、「フォロワー層が日本旅行に関心がある層か」「過去投稿で食関連がそれなりにあるか」「直近のエンゲージメント率が落ちていないか」の 3 つを見て選定しています。

主戦場 2 — 大衆点評 (旅中の店選び)

旅中、まさに「今夜どこで食べよう」となった瞬間に開かれるのが大衆点評です。中国国内ユーザーが旅マエに必ずチェックしているので、ここに載っていないと旅中の選択肢から完全に外れます。

海外店舗登録は無料で、所要時間は 1 時間程度。必要なのは店舗名 (簡体字 + 英語)、住所、営業時間、メニュー写真、店舗の外観・内観写真ぐらい。「いきなり大きく動くのは怖い」という方には、まず大衆点評の登録だけ済ませる、というのを最初に勧めることが多いです。

ただし、大衆点評と小紅書の両方で勝負を決めるのは、写真です。スマホで自撮りした写真は、ほぼ通用しません。プロカメラマンに 1 回頼んで、店舗 + 料理 + 動画素材を 3 ヶ月分ぐらいまとめて撮っておく、というのが現実的なやり方です。四半期に 1 回のペースで継続発注、ぐらいが感覚値としてはちょうどいい。

Google ビジネスプロフィールも忘れずに整えておくと、香港・台湾・マカオ・シンガポール・マレーシアの華人ユーザーが取れます。中国本土の方はあまり使わないですが、それ以外の中華圏ユーザーはデフォルトで Google を使うので、両方押さえておくのが無難です。

主戦場 3 — 自社ドメインの多言語 LP

3 つ目は、自社ドメインの多言語 LP です。

これは「外せない」というよりは、プラットフォーム依存リスクを下げるための保険として持っておくべきもの、という位置づけです。小紅書や大衆点評の規約が変わったり、アカウントが凍結されたりしたとき、自社ドメインがあるかどうかで打てる手の幅が大きく変わります。

4 言語で持つのが理想です。簡体字・繁体字・英語・日本語。簡体字と繁体字を一緒くたにしていると、台湾・香港・マカオのユーザーには「適当に作った感」が出てしまうので、本文を別にしておいたほうがいいです。

文字だけの話ではなくて、好みがけっこう違います。本土ユーザーには紹興酒の年代や八角の使い方を詳しく書くと喜ばれます。台湾ユーザーには「あっさり仕立て」「化学調味料不使用」のラベルが効きます。香港ユーザーは点心や海鮮への反応が強く、マカオ系ユーザーはポルトガル融合料理に親しみがあります。

LP に予約フォームと SNS 連携を載せておくと、小紅書から流入した人がそのまま予約に進む、という動線が作れます。プラットフォームに人を貸している状態から、自分のドメインに集約する状態に、少しずつ移していくイメージです。

決済まわりの実務

決済については、微信支付と支付宝の 2 つを押さえておけば、中国本土ユーザーの大半をカバーできます。

日本の PayPay は海外発行のクレカが紐付かないので、中国本土から来た方には基本的に使えません。国内 QR 決済を導入済みでも、中国向けは別途必要、というのが現場の感覚です。

QR コードの脇に、中国語で一言「请扫描支付」(QR を読み取ってお支払いください) と添えておくだけで、客側の心理的負担がだいぶ下がります。スタッフが英語や中国語を話せなくても、文字が一行あるだけで会計時のもたつきが減る、というのは小さいけれど効きます。

都内の中華料理店で進めている事例

都内の中華料理店の事例です。前の記事で書いた持続化補助金の申請も、この店の話です。

直近の課題は、中国人観光客の戻りに合わせて中国語ユーザーを取り込みたいのに、自社ドメインなし・SNS 一切なし・決済も日本円現金のみ、という状況でした。

ただし、日本人向けの既存 Instagram 投稿はそれなりに溜まっていて、写真や動画の素材は手元にありました。なのでアプローチとしては、ゼロから新規撮影するのではなく、既存素材を抽出・再編集し、中国語キャプションを乗せる流れにしています。

中国語キャプションは、AI 翻訳をベースに、ネイティブ監修を必ず通すという 2 段階。AI 翻訳のままだと、表現がたまにズレることがあって、特に料理名や食感の表現はネイティブが見ないとちぐはぐな印象になります。

KOC コラボ用の素材だけは、新規撮影で別途用意しました。既存投稿をそのまま KOC に渡して再ポストしてもらうと、小紅書のアルゴリズム上、評価が下がるためです。KOC 自身の文体で投稿してもらえる素材を提供する、というのが、地味だけど大事なポイントでした。

採択発表後に、Before/After を別記事で書く予定です。月にどのぐらい予約が増えたか、KOC コラボのうちどれが効いたか、生の数字をそのまま出すつもりでいます。それまでの案件概要は 都内の中華料理店 — 多言語インバウンド LP + 補助金活用 にまとめてあります。

「翻訳しただけ」では届かない、という話

最後に一つだけ。

中国インバウンド対応というと「メニューを中国語にする」「ポスターに中国語を併記する」というところで止まってしまうケースが多いです。私自身、最初はそれで十分なのかと思っていました。

でも、中国側のプラットフォームに載って、現地ユーザーが旅前に見つけられる状態になっていないと、入口の動線がそもそもありません。翻訳は「来てくれた人を逃さないための施策」であって、「来てもらうための施策」ではない、というのが、両側を見ていて気付いたことです。

入口を作るには、小紅書か大衆点評か、どちらかには載っていないといけない。これは翻訳の延長ではなくて、別のレイヤーの仕事です。

まずは大衆点評の登録だけでも

「いきなり多言語 LP は重い」「小紅書の運用代行は予算が見えない」という方には、まず大衆点評の海外店舗登録から始める、というのが最初の一歩としては現実的です。

登録費用は無料、所要時間は 1 時間程度、必要なのは店舗写真とメニュー写真と店舗情報だけ。これで中国本土ユーザーの旅中の選択肢に入る権利が手に入ります。LP や SNS はその後で順次やっていけばいい。

本格実装に進むときには、補助金活用とのセットで初期費用を圧縮できる場合もあります。経費区分や落とし穴の話は、別記事 (持続化補助金 第 19 回 で Web 制作費を実質 1/3 にする方法) のほうに書きました。

Jean de Pain Studio では、多言語 LP 制作と中国 SNS の立ち上げをワンストップで受けています。詳細は サービス紹介 を見てください。


中国インバウンドまわりで動き出したい方は、contact@jeandepain.com まで気軽にどうぞ。先に 4 言語 LP を 1 本、無料で試作するところから始められます。

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