飲食店の多言語サイトとメニュー中国語化、実装側から見たつくり方
「メニューを中国語にしたいんですが」と言われたとき
飲食店のオーナーから、ときどき相談を受けます。
「メニューを中国語にしたい」「サイトも中国語対応にしておきたい」「翻訳ツールにかけてみたけど、これで合ってるのか自分では分からない」。
中国人観光客が戻ってきているのを肌で感じていて、何かしなきゃと思っている。でも、いざ中国語化となると、どこまでやればいいのか、何が正解なのかが見えない。相談に来る方は、たいていこの「自分では判断がつかない」ところで止まっています。
私はふだん中国語で商談も実装もしている立場で、Web 制作とアプリ開発を業務委託で受けています。中国語の文面を自分で書いて、そのまま自分でコードに落とすところまでを一人でやる、というのが普段の仕事です。この「書く側と作る側が同じ」という立ち位置から見えてくる、飲食店のサイトとメニューを中国語化するときの実際のつくり方を、実装側の話として書き残しておきます。
先に役割分担をはっきりさせておくと、この記事は「自分の店のサイトとメニューをどう作るか」の話です。小紅書 (シャオホンシュー) や大衆点評といった中国側のプラットフォームに載って、現地ユーザーに見つけてもらう話は、別記事の 中国人観光客が戻ってきた。日本の飲食店が気付いていない 3 つの主戦場 のほうに書きました。集客の入口を作るのが向こうの記事、来てくれた人を逃さないための受け皿を作るのがこの記事、という分担です。両方そろって初めて回ります。
機械翻訳まかせのメニューが「なんとなく惜しい」理由
まず、よくあるパターンの話からです。
無料の翻訳ツールにメニューをそのままかけて、出てきた中国語をそのまま貼る。これ自体は悪くないスタート地点です。何もないよりはるかにマシです。ただ、この方法でできあがったメニューは、中国語ネイティブが見ると「なんとなく惜しい」状態になりがちです。
理由はいくつかあります。具体的な誤訳の実例をでっち上げるつもりはないので、構造的にどういうズレが起きやすいか、というレベルで書きます。
ひとつ目は、料理名の固有名詞が一般名詞に化けてしまうこと。日本の創作料理や店独自の名前は、機械翻訳が「意味」を取りにいくので、店が大事にしている名前のニュアンスが平板になります。
ふたつ目は、敬語・丁寧表現の温度がちぐはぐになること。中国語のメニュー表現には、日本語とは違う「飲食店らしい言い回し」の作法があって、直訳すると説明書のような硬さが出たり、逆にカジュアルすぎたりします。
みっつ目は、簡体字と繁体字が混ざること。ツールの設定や元データ次第で、一枚のメニューの中で字体がまだらになることがあります。これはネイティブが見ると一発で「機械にかけただけだな」と分かってしまうサインです。
機械翻訳が悪いのではなく、機械翻訳をたたき台として使い、最後に人が温度を整えるという工程が抜けていると惜しい、という話です。私が関わるときも、AI 翻訳をベースにして、ネイティブ監修を必ず一段かませる二段構えにしています。ゼロから人力で訳すより速く、機械まかせより自然に仕上がります。
簡体字か繁体字か — 「どっちか」ではなく「誰に向けるか」
中国語化で最初に決めるべきなのが、字体です。簡体字 (簡体中文) と繁体字 (繁体中文) のどちらにするか。
ざっくりした対応関係はこうです。
- 簡体字: 中国本土・シンガポールのユーザーが読み慣れている字体
- 繁体字: 台湾・香港・マカオのユーザーが読み慣れている字体
これは単なる文字の見た目の違いではなくて、読み手の文化圏が違うということです。本土の方に繁体字を出すと「読めなくはないけど他所向けだな」と感じられ、台湾・香港の方に簡体字を出すと「うちら向けじゃないな」と感じられます。どちらも、伝わりはするけれど「自分宛て感」が薄れる。
では実務でどうするか。予算とターゲットで段階的に考えます。
まず簡体字だけでも価値はあります。来店する中国語圏ユーザーのボリュームを考えると、簡体字を一枚きちんと用意するのが最初の一歩としては現実的です。
そのうえで繁体字まで用意できると、対応の幅が一段広がります。台湾・香港からの旅行者は個人旅行のリピーターが多く、繁体字でちゃんと迎えられていると伝わると、店への印象が変わります。
ここで気をつけたいのが、簡体字を機械的に繁体字に変換しただけのものです。字体の自動変換は可能ですが、変換だけだと台湾・香港で使う語彙や言い回しまでは置き換わりません。字は繁体字なのに表現は本土風、というちぐはぐが残ります。本気で繁体字対応するなら、字体変換ではなく繁体字圏の表現で書き直すのが筋です。とはいえそこまで一気にやる必要がある店ばかりではないので、まずは簡体字、余力が出たら繁体字を別建てで、という順番をおすすめすることが多いです。
料理名は「直訳」より「何の料理か伝わる説明」
中国語メニューで案外つまずくのが、料理名の見せ方です。
日本料理の名前をそのまま中国語に直訳すると、字面はできあがるのですが、「で、それは結局どんな料理なの?」が伝わらないことがよくあります。食材なのか、調理法なのか、味付けなのかが料理名だけでは読み取れない、という状態です。
なので私は、料理名は「正式名 + ひとことの説明」のセットで見せることを勧めています。
考え方としてはこうです。
- 料理名: 店が使っている名前を尊重する。無理に意味で訳しすぎない
- 説明文: 「何の食材を、どう調理して、どんな味か」を一行で添える
たとえば抽象的に言うと、「○○焼き」とだけ書くのではなく、「○○ (鶏もも肉を甘辛いタレで焼いた一品)」のように、食材と調理法と味の方向性が一行で分かるようにする、という形です。中国語圏のメニューは、料理名の下に説明を添える文化となじみがいいので、この見せ方はわりと自然に受け入れられます。
特に効くのが、辛さ・量・食材のアレルギー的な情報です。「辣 (辛い)」「微辣 (やや辛い)」のような辛さ表示や、ボリューム感の一言があると、注文時の不安がだいぶ減ります。言葉が通じないテーブルでも、メニューの一行が接客の代わりをしてくれる、というのが地味に効くポイントです。
写真と価格の見せ方
メニューの中国語化というと文字の話になりがちですが、実は写真と価格の見せ方のほうが、注文のしやすさに直結します。
写真について。中国語圏のユーザーは、メニュー選びで写真をよく見ます。文字情報だけのメニューより、料理写真が添えてあるほうが圧倒的に注文されやすい。逆に言うと、写真があれば多少訳が硬くても料理は伝わります。スマホで自撮りした写真ではなく、料理がちゃんと美味しそうに見える一枚を、主力メニューだけでも用意しておく価値があります。
価格について。税込み・税抜き・サービス料の扱いは、はっきり書いておいたほうがいいです。日本の飲食店の価格表示は、海外から来た方には分かりにくいことがあります。会計時に「思っていた金額と違う」となると、それだけで店の印象が下がります。メニュー上で「価格は税込み」「別途サービス料○%」を中国語で一行添えておくだけで、会計時のトラブルとモヤモヤが減ります。
数字そのものは万国共通なので、価格欄は翻訳の必要はありません。ただし通貨の単位 (円 / 元) の表記だけははっきりさせておくと親切です。
日中英 3 言語サイトの構成 — URL 設計と切替 UI
ここからはサイト側の実装の話です。日本語・中国語・英語の 3 言語サイトを作るとき、構成で押さえておきたいのが URL 設計と言語切替 UI です。
URL 設計
多言語サイトの URL の持ち方には、いくつかやり方があります。代表的なのは次の 3 つです。
- サブディレクトリ型:
example.com/zh/、example.com/en/のように、言語ごとにパスを分ける - サブドメイン型:
zh.example.com、en.example.comのように、言語ごとにサブドメインを分ける - クエリパラメータ型:
example.com/?lang=zhのように、パラメータで切り替える
飲食店の規模で、一台のドメインで運用するなら、私はサブディレクトリ型を勧めることが多いです。理由は、ドメインの評価が一箇所に集約されて SEO 上扱いやすいこと、運用がシンプルなこと、そして言語ごとのページが URL で明確に分かれることです。クエリパラメータ型は手軽ですが、検索エンジンに同じページと見なされやすく、言語別に評価されにくいので、本気で見つけてもらいたいなら避けたほうが無難です。
もうひとつ、hreflang の指定を忘れないようにします。これは「このページの中国語版はこっち、英語版はこっち」と検索エンジンに教えるためのタグです。きちんと設定しておくと、中国語圏のユーザーに中国語ページが、英語圏のユーザーに英語ページが出やすくなります。派手さはないですが、多言語サイトでは効いてくる部分です。
言語切替 UI
言語の切り替えボタンは、右上のヘッダーに置くのが定番です。迷いやすいのは、切替ボタンの表示のしかたのほうです。
国旗アイコンだけで言語を表すのは、実は分かりにくいことがあります。中国語は本土・台湾・香港で使われていて、「どの国旗?」という話になりがちだからです。なので、言語名そのものを各言語の表記で出すのがおすすめです。
- 日本語のボタンには「日本語」
- 中国語のボタンには「中文」(簡体字なら「简体中文」、繁体字なら「繁體中文」)
- 英語のボタンには「English」
それぞれの言語の人が、自分の言語名を自分の言語で見つけられる、という状態が理想です。「English」を探している人に「英語」と日本語で書いてあっても見つけにくい、という当たり前のことを、意外と外しがちなので念のため。
そしてもうひとつ。言語を切り替えても、できるだけ同じ内容のページにとどまるようにします。中国語のメニューページから言語を日本語に切り替えたら、日本語のトップに飛ばされるのではなく、日本語のメニューページに移る。これがちゃんとできていると、ユーザーは迷子になりません。細かいところですが、体験の質はここで決まります。
多言語化と予約導線をどうつなぐか
メニューとサイトを中国語化しても、予約や問い合わせの導線がそこで途切れていたら、せっかくの受け皿が機能しません。多言語化のゴールは「読んで満足してもらう」ことではなく「来店・予約につなげる」ことなので、ここの接続が肝心です。
ポイントは、中国語圏のユーザーが普段使っている連絡手段を許容することです。日本の予約フォームをそのまま中国語にしただけだと、入力のハードルが高くて離脱されることがあります。
具体的には、こんな選択肢を並べておくと届きやすくなります。
- LINE: 台湾では LINE が日常的に使われているので、台湾からのユーザーには有効です。なお香港・マカオは WhatsApp が主流なので、LINE では届きにくい点だけ注意
- WeChat (微信): 中国本土のユーザーにとっては LINE より WeChat が日常です。QR コードを置いておくと友だち追加から問い合わせにつながります
- シンプルな予約フォーム: 名前・日付・人数・連絡先だけの最小構成にして、入力負担を下げる
すべてを揃える必要はありません。ターゲットが本土寄りなら WeChat、台湾・香港寄りなら LINE、というふうに、来てほしい層に合わせて優先順位をつければいいです。大事なのは、「中国語でメニューを見た流れのまま、慣れた手段で連絡できる」状態を作っておくこと。導線が言語をまたいで途切れないようにする、ということです。
よくある質問
Q. 簡体字と繁体字、どちらにすべきですか?
まず簡体字を一枚きちんと用意するのが現実的な第一歩です。中国語圏ユーザーのボリュームを考えると、簡体字対応の費用対効果がいちばん分かりやすいからです。台湾・香港からの個人旅行リピーターも取りにいきたい場合は、繁体字を別建てで追加します。簡体字を機械変換しただけの繁体字は、字は合っていても表現がちぐはぐになるので、繁体字をやるなら繁体字圏の表現で書く前提で考えてください。
Q. 無料の翻訳ツールで中国語メニューを作るのはダメですか?
ダメではありません。むしろ、たたき台として使うのは合理的です。問題は機械翻訳の出力をそのまま最終版にすることです。料理名のニュアンスが平板になったり、丁寧表現の温度がずれたり、字体がまだらになったりしやすいので、最後にネイティブが一段整える工程を入れると、ぐっと自然になります。「機械でたたき台、人で仕上げ」が現実的です。
Q. サイトは何言語あれば十分ですか?
店のターゲット次第ですが、まずは日本語・中国語 (簡体字)・英語の 3 言語で土台を作るケースが多いです。英語は中国語圏以外の旅行者にも効くので、コスパがいい一枚です。そこから、繁体字を足す・韓国語を足す、と必要に応じて言語を増やしていく考え方です。最初から欲張りすぎず、運用できる範囲で始めるのが続けるコツだと思います。
費用感と進め方
具体的な金額は店ごとに事情が違いすぎるので、目安だけ書いておきます。
Web / LP 制作は ¥80,000 から (多言語対応可・税抜・あくまで目安) で受けています。中国語化を含む多言語対応も、この枠の中で相談しながら組んでいます。
そして、初期費用を抑えたい場合は補助金活用とのセットという選び方もあります。実際、都内の中華料理店の事例では、多言語インバウンド LP の制作と補助金活用を組み合わせて、初期費用を実質 1/3 に圧縮する形で進めています。中国人予約は月 +30 件の見込みで設計していますが、これは見込みの数字で、補助金 (持続化補助金 第 19 回) は電子申請を完了して採択発表を待っている段階です。確定した実績ではない、という前提で読んでください。この事例の詳細は 都内の中華料理店 — 多言語インバウンド LP + 補助金活用 にまとめてあります。
補助金については、私が代わりに書類を書くのではなく、どの制度が合うかの助言と、申請のポイント解説までが私の役割です。申請書の記入はお客さま自身にやっていただく形にしています (このあたりは行政書士法との兼ね合いです)。制度選びと、Web 制作費がどの経費区分に入るか、といった実装側から見たコツはお伝えできます。
まとめ
飲食店の中国語化は、「メニューを翻訳する」で止めると惜しい仕事です。
機械翻訳はたたき台と割り切って最後はネイティブの温度で仕上げる。字体は「誰に向けるか」で決めて、まず簡体字から。料理名には何の料理か一行で伝わる説明を添えて、写真と価格表示で注文のハードルを下げる。サイト側では URL 設計と言語切替を丁寧に作り、メニューから予約までの導線を LINE や WeChat も使って言語をまたいでつなぐ。
もし優先順位に迷ったら、私なら簡体字メニューと予約導線の二つから手を付けます。ここが受け皿の背骨で、他はあとから足せるからです。ひとつひとつは派手ではないですが、積み上げると「中国語圏のお客さんが迷わず注文して、そのまま予約できる店」になります。受け皿を整えてから、集客の入口 (小紅書・大衆点評) を作りにいく、という順番がきれいです。
自分の店のサイトとメニューを中国語化したいけれど何から手をつけるか迷っている、という方は、無料の業務診断で今のメニューやサイトを見せてください。どこから手を付けると効くか、実装側の目線で一緒に整理します。